別れの一日(ひとひ)
伊那 果
無造作に枯れ花捨てる気安さで 我も誰かを傷つけ来たり
マニキュアの光は鈍く武器にすらならぬ女の小道具として
雲隠れしたのはわたし 月もまた夕雲の陰泣いているだろう
愛こそが熱の媒体 遠ざかりゆくときに知る冷たい事実
諍いを重ねて一人向かいいる夜の机は少し広くて
また一人一人と降りるバスの中 まさに故なきわびしさと居る
一人旅 写真に我の姿なく 足跡のみが刻まれていく
人通り少なき道を選び来て寂しさに酔うゆとり確かむ
いつの日か思い出すためそれぞれの行動がある悲しき一日
秋深し一人の部屋に虫一匹殺そうとして一呼吸置く
後悔を恐れるゆえに居る場所で我限りなく醜くなりぬ
逃げむとす心に鎖かけてまでとどまる理由を見つけあぐねる
隣人の留守電闇に響き出す 我を呼び出す人のなき夜
真夜中のサイレン遠く 誰一人私の元へ駆けつける人なし
窓越しの吐息の行方見失う ほおっと白き音だけ残し