Radio Cassette recorder
伊那 果
ラジオから録った尻切れトンボの音楽
かじりつくように何度も繰り返しを聴いていた
重低音が鳴らないスピーカーから
シャカシャカとチープな音を奏でるロックンロール
聞き取れないまま書き取った間違いだらけの歌詞
家族も学校も友達も
とにかくいろんなものが重たくて
見えない将来どころか真っ暗な自分自身
わかりもしない恋や愛の言葉に共感し
めくるめく想像だけを頼りに生きていた
経験したことのないたくさんの世界
圧倒的な威圧感でああ、息が止まりそう
「自由になりたい」なんてフレーズを
心の中で泣きながら繰り返し聴いた
10年後の私
目の前にあるのは相変わらず圧倒的な世界
今ならこうもいえる
いっぱい悩んだことは無駄じゃない
でも悩まずに生きていけるならそれにこしたことはないのかも
重苦しいこだわりはどこかに解けて
いろんな音楽をいろんな場所でいろんな形で聞けるようになった
こんなに簡単なことだったのに
何がそんなに許せなかったのだろう
だけど
楽になったはずの今
たくさんの音楽はただ通り過ぎていくようだ
私を縛り付けたもの
あの苦味もいつか忘れ去ってしまうのだろうか