Radio Cassette recorder
伊那 果

 ラジオから録った尻切れトンボの音楽
 かじりつくように何度も繰り返しを聴いていた
 重低音が鳴らないスピーカーから
 シャカシャカとチープな音を奏でるロックンロール
 聞き取れないまま書き取った間違いだらけの歌詞
 家族も学校も友達も
 とにかくいろんなものが重たくて
 見えない将来どころか真っ暗な自分自身
 わかりもしない恋や愛の言葉に共感し
 めくるめく想像だけを頼りに生きていた
 経験したことのないたくさんの世界
 圧倒的な威圧感でああ、息が止まりそう
 「自由になりたい」なんてフレーズを
 心の中で泣きながら繰り返し聴いた 

 10年後の私
 目の前にあるのは相変わらず圧倒的な世界
 今ならこうもいえる
 いっぱい悩んだことは無駄じゃない
 でも悩まずに生きていけるならそれにこしたことはないのかも
 
 重苦しいこだわりはどこかに解けて 
 いろんな音楽をいろんな場所でいろんな形で聞けるようになった
 こんなに簡単なことだったのに
 何がそんなに許せなかったのだろう
 
 だけど
 楽になったはずの今
 たくさんの音楽はただ通り過ぎていくようだ
 私を縛り付けたもの
 あの苦味もいつか忘れ去ってしまうのだろうか


自由詩 Radio Cassette recorder Copyright 伊那 果 2008-02-27 00:07:54
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