二十歳のころ②
伊那 果
灰皿につもる吸殻 砂時計よりも確かに時を刻んで
思春期は置いてけぼりで悼みすらなく見上げいる二十歳の空よ
夕焼けに溶かされてしまえ 毎日をつくる形のあるものすべて
くすぶってむしばんでいるものをとらえんとして言葉を捜す一日
迷いつつ並べし「思い出」最後には「順不同」などと言い訳をする
何に飢え生きておるらむ 飢え切らぬままぬるい部屋でふやけているも
天気雨 太陽だけをあてにして 無防備な我もしぐれていくか
ふいに身を貫く不思議なもどかしさ性欲に似て我を悩ます
晩冬の旅の断片(かけら)は時を経てキルトのように私となりぬ
寒空に薄雲張りて見えねどもしし座の星がいま降りかかる
一本の棒を背骨に入れなおし我が半生に思い巡らす
ふらふらと右へ左へ漂って生きるもそれで我というもの
奥底に潜む涙を言葉にて出す術あらば空は晴れなむ
とりどりに彩る山に囲まれてむき出しの魂(たま)気高くさみし