名前を覚える
北野つづみ
鳥の名前を覚えることから
始めようと思うの
と、その人は言った
たとえば、つばさを一瞬たたんで飛ぶ
あの鳥の名前を覚えたら
あの鳥はもう
見知らぬ鳥ではないでしょう?
さらりと雪が、降り積もった朝だった
ふいに、その人が語りはじめたのは
シラカンバの枝の先は
白い花が咲いたようだった
あまりの寒さに思わず
口を開いたのかもしれなかった
鳥の名前を覚えたら
つぎには空の名前と雲の名前を
すべてのものの名前は
人が名づけたものだから
少しずつ覚えて
それら全てを好きになりたいの
と、その人は言って
それから黙って空を見上げた
失ったのは愛する気持ち
青空からは大きな雪の切片が
はらりはらりと落ちてきていた
空もやはり
寒さに耐えかねたようだった
二〇〇八年一月十五日