入学式前夜
たもつ
女は
胎内に新しい生命を宿したら
「母親」になるというのに
男は
新しい生命が誕生してから
「父親」になる権利を得る
のだろうか
それは
目の前に細く頼りない道が一本
忽然と出現するようなもので
トボトボと歩き出したりもするのだが
どこまで歩けば「父親」になるのか
まったくもってわかりやしない
いや、もしかしたら
出発する時期が違うだけで
母親にも父親の道と平行に続くのが一本あって
こちらからは見ることができないその道を
歩いたり、走ったり
しているのかもしれない
入学式前夜
築二十三年の社宅六畳間
隣では娘と妻が小さな寝息をたてている
「川」の字になって寝ると
おぼろげに
平行に続く三本の道が見えた
電気が消えた玄関では
おろしたての靴が三足
並べられている