揺れるひと
恋月 ぴの

また後で携帯にメールでも入れるから

あなたの去った
バスルーム
鏡に映るのは恋に疲れたひとりのおんな
乱れきった髪が物語る
しがみつこうとしてしがみきれなかったものへの思い

シャワーでは流しきれない
あなたの残り香が
バスルームの隅々まで支配しているようで
ひとり
バスタブに身を横たえる

どこかに小さな窓でも穿ってあれば
静かに降り始めた雪でも眺めていられるけど
無機質な乳白色の断崖を仰ぎ
わたし
ここまで着信音届くかしらと幼稚な不安感を覚え

11桁の数字に捕われている目じりの皺に苦笑いする

積もる雪の白さとは隔絶された場所で
ひとりのおとこを慕う
リストカット
そんな大それたことをする勇気など持ち合わせているはずも無く
誰かひとのせいに出来ればと思ってみたりして

日常の薄闇から微かに響く着信音に
わたし
ひとりでは満たしきれないもどかしさに揺れる



自由詩 揺れるひと Copyright 恋月 ぴの 2008-02-22 21:01:07
notebook Home 戻る