揺れるひと
恋月 ぴの
また後で携帯にメールでも入れるから
あなたの去った
バスルーム
鏡に映るのは恋に疲れたひとりのおんな
乱れきった髪が物語る
しがみつこうとしてしがみきれなかったものへの思い
シャワーでは流しきれない
あなたの残り香が
バスルームの隅々まで支配しているようで
ひとり
バスタブに身を横たえる
どこかに小さな窓でも穿ってあれば
静かに降り始めた雪でも眺めていられるけど
無機質な乳白色の断崖を仰ぎ
わたし
ここまで着信音届くかしらと幼稚な不安感を覚え
11桁の数字に捕われている目じりの皺に苦笑いする
積もる雪の白さとは隔絶された場所で
ひとりのおとこを慕う
リストカット
そんな大それたことをする勇気など持ち合わせているはずも無く
誰かひとのせいに出来ればと思ってみたりして
日常の薄闇から微かに響く着信音に
わたし
ひとりでは満たしきれないもどかしさに揺れる