終わる、世界が、始まる
木屋 亞万
十代も終焉に近づき
周囲は透明感を持つ
錆びた滑り台で
僕は雲と交信している
前線は今どの辺りだい?
犬と会話していた
緑の紐持つベージュのコート
公園が散歩ルートの
君に一目惚れ
最期に相応しい恋
僕は一度死にまた蘇る
新たな世界を用意して
待っていてください
公園以外の君を見て
夕方以外の君を知るから
雲を散歩している
オホーツク海気団の団長
前線では冬将軍が
善戦しておりますよと
返信を送った
滑り台は凹んだ音を立てる
若い娘の尻追い掛けて
本当馬鹿みたいねと
うなだれる姿勢が
滑り台のいつものポーズ
僕はPM4:16に生まれた
今日がちょうど20年目
珍しく雪の降る公園に
君は来るだろうか
団長、前線の勝利だ
貴方も勝てれば良いですね
団長は祝杯に酔いつつも
返信を絶やさない
もうすぐ眠るのですね
貴方は良い通信使でした
彼女と暮らす夢が
雪片とともに目の奥へ
洒落たキッチンにポップなテーブル
スタイリッシュなイス2つ
中心に硝子の一輪挿しとガーベラ
ブラインドが光の横縞を作り
窓際にいる君を照らす
君は水着じゃないか
そうかこれは夢か
なら仕方ない
若く跳躍する雑誌の
表紙のような部屋に
まだ知り得ないコートの
中身を夢想しているんだ
頬にも肩にも触れてみたい
けれどまずは手を繋ぎたい
意思を持って
動こうとすると
暗闇が煮立ち始め
夢の鮮明さを蝕む
瞼に雪片の流れが蘇り
目を開ければ君の顔
睫毛と髪に雪を乗せた
心配そうな君の顔
大丈夫?どうしてこんな
と続く言葉が聞き取れない
君の唇と瞳の微かな潤いが
感覚を完全に支配していく
僕に流れた年月が一周し
次がまた始まる
新たな心の波を感じ
新たに増えた人格が一人
異物感に戸惑ったけれど
ほのかに周囲が温かくなった
春が来て団長は故郷へ帰り
僕は夜の滑り台で声を
確かめながら愛の歌を唄う
君は今日もコンビニへ
行く途中にここを通る
滑り台はまだ凹んだままだ