菫の小径
塔野夏子

わたしたちは 底悲しく
わらいあう
そして指をつなぎあい
小径をゆく

菫の花がそこかしこに
ふるえるように咲いている

わたしたちは 歩きながら
優しげに 言葉を交わす
でも気づいている
つないだ指のすきまから
夢が洩れてゆく
歩いてゆくほどに
とめどなく洩れてゆく

気づいているけれど
気づかないふりをしながら
わたしたちは歩いてゆく
けれどそれは夢だから
洩れてゆく感触も甘く
わたしたちは ときおり
吐息をこぼしてしまう

小径は
どこかさびしい歌のようにつづき

わたしたちは
何処へゆくのか知らず
指をつなぎあい歩いてゆく
優しげに 言葉を交わしながら

そして夢は洩れてゆく
つないでもつないでも
つなぎきれないすきまから
歩いてゆくほどに
とめどなく

そこかしこに ふるえるように
菫の花は咲いていて

わたしたちは 底悲しく
わらいあう



個人サイト「Tower117」掲載


自由詩 菫の小径 Copyright 塔野夏子 2008-02-21 20:27:22
notebook Home
この文書は以下の文書グループに登録されています。
春のオブジェ