石瀬琳々

あの古い家の二階の窓に
いつか見た雲が流れてゆく
雲はいつもあの窓に吸い込まれ
戻って来ない日を数える
そっと指折りをする


窓ガラスに昼の陽がさして
辺りはぱっと明るくなった
物言いたげに風が吹き
時折指先で揺すりさえするが
雨風にさらされて
砂埃に汚れたあの窓は
ずっと沈黙したままだ
障子はぴったり閉ざされて
まだ残る寒さを物語るように


庭先の椿の花が
ただこぼれるばかりに赤い
あの古い家の二階の窓の
破れた障子の隙間から
猫の片目が覗いている



自由詩Copyright 石瀬琳々 2008-02-20 13:43:20
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