内緒の御伽
灯兎

誰も相手をしない 泣き喚いているだけの犬の問題
読み進められない 三行で終わる小説の問題
不眠と惰眠を繰り返す 精神病者の問題

頼むから静かにしろよ

過密化と重層化と洗練化を 一遍に成し遂げた社会で
誰がそんな下卑た問題を 喜んで抱えるだろう
アトラスでさえ きっと地球を投げ出したくなる

いつしか僕らは 内緒話中毒者になった
アトラスの耳に入らないように 隣人を刺激しないように
殺されないように 生かさないように 殺さなくてもいいように

辿り着くのは 結局こんな生き方つまらないってことなんだけど
語り合うことが単体では何の生産性も持たないってことなんだけど
内緒と騒音は紙一重の危うさを持つから楽しいんだ

昔は今に比べて生き易かった そんな話を聞いた
石を投げればそれがちゃんと相手に当たったんだって
おかしいよね 今じゃ自分に当たるだけなのに

今は昔に比べて生き易い そんな話も聞いた
馬鹿でも平和に生きていけるからなんだって
おかしいよね 緩慢な死に気付いてないだけなのに

社会なんて そんなに大層に考える対象じゃないと思う
輪廻転生も悪魔も神も天使も地獄も天国も 無いと思う
信じているのは自分の才能と勘だけ もう十分だと思う

こんなこというのナルシストだと思われるかな
大丈夫 誰より自信が無いのも劣ってるのも 僕だって分ってる

そんなことより ほら また内緒話が始まるから 行かなきゃ
ロバの耳に届かない所で 頑張って生きなくちゃ


自由詩 内緒の御伽 Copyright 灯兎 2008-02-19 16:15:54
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