唄人の石
服部 剛
久しぶりの路上ライブで
再会した彼は
唄い終えると
ギターを背後の壁に立てかけ
白い吐息を昇らせて
小鳥みたいに震えてる
ファンのみんなに
ほっかいろを配る
昼間の彼が
仕事に急ぐ電車に乗り損ね
ぽっかり空いた
時のすきまに佇んだ
スープ屋さんで
頭上に微笑む
音楽のかみさまから
そそがれた異国風のメロディ
「東京クラムチャウダー」
というできたての新曲を
弾き語る唄声
冴えた月のぽっかり浮かぶ
駅の広場の上空に響き
ポケットに入れた
ほっかいろを握りながら
彼を囲む壁になって立つ
僕等の頭の内側を
ぐるぐる廻る
異国風のメロディ
翌日僕は
日曜日の商店街を歩きながら
ふいにポケットに手を入れ
昨日もらったほっかいろの
まだ熱を帯びた砂袋を握る
たった一つ崩れぬ石が
冷えた手のひらを
あたためた