寂しい会話(実話)
よしおかさくら
総武線に乗る
今日もはっきりと黄色いが
乗ってしまえばわからない
終電の一本前
日本シリーズの直前とくれば
立っているひともいない、
空いている席もない、
という絶妙な乗車率だ
そんなわけで
私の両隣では携帯電話に因る、
((ヘンに噛み合った会話))
が成立してしまう
向かって右にピンクのブランドずくめで髪が金茶色の女性
向かって左に紺色スーツで黒縁メガネの男性
彼らはほぼ同時に電話を着信する
向かって右 『もしもし? え? おまえ何なの? うるさいよ、ちょっと』
真中(わたし) ……。
向かって左 『あ。申し訳ありません、ええ、』
向かって右 『え? おまえどこにいんの? あたし、西船行き乗っちゃっ』
真中(わたし) ……。
向かって左 『間も無く、ええ、10分後には着』
向かって右 『だから迎えに来いよ、おまえが』
真中(わたし) ……!
向かって左 『あ。申し訳ありません、いま電車なんですよ、ですから』
向かって右 『だ〜か〜ら、迎えに来いって!』
真中(わたし) ……。
向かって左 『十分後にまた掛け直しますので、ハイ』
向かって右 『だって西船行き乗っちゃったんだよ、戻るのウザいって』
真中(わたし) ……。
向かって左 『ハイ、申し訳ありませ』
向かって右 『だからおまえ何なの? マキにも言ってたでしょ−?』
真中(わたし) ……?
向かって左 『いえ、そのようなことは、、ええ、また後日……』
向かって右 『ほんともうタカシとは切れたから他に? いるよ』
真中(わたし) …!……!
向かって左 『はぁ、そうですか、でしたらまた後日……』
向かって右 『え。……、うん。じゃ、バイバイ』
真中(わたし) ……。
向かって左 『それでは失礼します』
目の端でそっと観察する
完璧な会話だったが、
彼らは知らない
彼らは
そばにはいない相手と
話していたのだった