遺書
ゆるこ
おじいちゃんの後ろ姿が
霞んで見えるようになりました
小さく丸まるおじいちゃんは
小さい頃より幼くて
厳格な表情まで
真ん丸の大福みたいになりました
時折寂しい声をあげて
電話越しから見つめます
私は少し、悲しくなるので
その場限りの笑みを渡します
おっきなおっきなおじいちゃんが
ちいさくちいさくなったのは
最近ポストによく届く
遺書のせいだと思います
四角いかおをしたそれは
何度も消した跡がある
小学生のノートみたいな
鉛筆で書かれたものでした
毎朝六時に届くそれを
新聞紙と一緒にリビングに持って来て
淹れたてのお茶を机に置いて
おじいちゃんはゆっくりと眺めます
時折目の窪みに血管が集まり
おじいちゃんは丸く笑います
その度に背筋は小さくなり
それは大事に抱え込まれます
おじいちゃん
私が呼ぶと
優しい瞳を寄越します
ここなはね、もういっさいだよ
おじいちゃんは小さくつぶやくと
ましろなそれをだきしめます
だんだん、おじいちゃんは前のめりになり
やがて、ビー玉/飴玉みたいに
まんまるく なりました
ああ、おじいちゃんはいしょ と いっしょになりました
それはしんぴてきなけつごうで、
ときはなたれたてのひらは
くうかんをとかしながらここをだきしめました
だんだん
おじいちゃんはかみふうせんみたいなうつくしいまるになり
ぽふん
と、おとをたてながら
あおいそらにすいこまれました
私が空を眺めると
まんまるい大福が笑っています
風になったおじいちゃんは
今ごろどこかの電話越しにいるのでしょうか