0円
亜樹

「ソフトバンクに変えたんよ」
と、最近高校時の友達からわりと頻繁に電話が来る。
「だってただだし」
と、電話口で笑う男は、私が数年越しで彼に片思いしていることをしらない。


夕べも電話が来た。
無料通話時間終了の、一時間前。
「なんか、さみしくて」
と、笑いながら彼は言う。
そうだね、私もさみしいよ。
同じように笑いながら私も答えた。
そうだね、さみしいよ。
他の人にも同じような電話をしてるんだろうと
思うと、さみしい。
さみしい、といいながら
君からの電話を待つ以外
することのない自分とはきっと違う。
それがさみしい。
「あいつはソフトバンクにせぇへんのかな」
と、そう言ってあげられる共通の友達と
自分はどこも違っちゃいない。
それを確認するのが、さみしい。
そうだね、すればいいのに、と
思ってもいないことを
口にするのも、さみしい。
さみしい。
さみしい。
好きだよ、という言葉を噛み殺すのが、さみしい。
「やっぱお前のこと好きやわ」
と、言われるのが、さみしい。
私も好きだよ、と口にするのが、さみしい。
さみしい。

噛み殺した言葉や
捻じ曲がった言葉の行く末が
ただ、さみしい。



こんなに長く片思いをしていると
不意に
ほんとにこの人のこと好きなのかな、と
思う日がある。
そうだ、やめてしまおう。
ただの友達の一人にしよう。
こないだ靴買った店の店員さん
かっこよかったじゃない。
中学生でもあるまいし、
いつまでもだらだら引きずってたってしょうがない。
身近で誰か、見つければいいんだ。
出会いがなければ探せばいい。
彼にこだわる必要なんてない。
そう、思う日もある。
そうゆう日に限って
ケータイはなるのだ。
私以外にも
いくらだって友達はいるのに
「0円だから」という理由だけで
彼は私にかけてくる。
今日あった話をして
愚痴を聞いたり聞いてもらって
電話を切った後は内容が思い出せないような、
話をする。
話してるときの、さみしさと
切ったあとの、さみしさと
そんなさみしさを覆い隠す嬉しさで
私は結局また再確認させられるのだ。




「好きだなぁ」と。

今は通話が無料の時間ではないので
彼から電話はかかってこない。


散文(批評随筆小説等) 0円 Copyright 亜樹 2008-02-18 02:16:46
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