うそをつく人
亜樹
父はいつも嘘ばかりついていた。
山の墓の横に開いた穴の下には死体があるとか。
ハチは一回人を刺すと死んでしまうとか。
私は実は赤い橋の下から拾ってきた子供だとか。
いつもそんなことばかし言っていた。
それが実は嘘ではなかったということを知ったのは、随分大人になってからだ。
山の墓の横に開いた穴は、昔土葬された棺おけが土の中で朽ちて出来たもので。
ミツバチは何かを刺すと針が抜け、そこから内臓が引きずり出され死んでしまい。
理科の時間に習った遺伝の法則では、O型の父とAB型の私の関係の説明はできなかった。
こんなことをいうと、随分と私がひねくれた、意固地な子供であったように思われるかも知れないが、父の言っていたほかの多くのことはやはり嘘でしかなかった。
例えば、冷蔵庫の中の私のヨーグルトを食べたのは自分じゃないだとか。
うちの山にはトトロが住んでいて、子供のときにあったことがあるだとか。
姉は実は川からたらいに乗って流れてきた赤ん坊だったとか。
そんな風な、たわいもない子供染みた嘘を父はたくさんついていて、私はそれを信じたり騙されたり相手にしなかったりしながら、大きくなった。
彼は祈ってくれたのだろう。
そんなたくさんの嘘の中、紛れてしまった本当が、そのうち嘘になるように。
けれど、切ないことに嘘は嘘のままで、本当のことはみじんも揺るがなかった。
父に何かあったとき、私の血は輸血できない。
そのことだけが、不意に悲しい。