ホースで水をかけてくれ
プテラノドン

 真夏の夜だ。
蛙の鳴声。その、むせ返るような自由さ。或いは、
青春の悪徳を手に―体育倉庫から盗んだバレーボールを片手に、
的外れなコートの上に、田んぼの中にぼくらは突っ立っていた。
「試合より緊張するよな」と友人は笑った。それから、
退屈の象徴のように思えてならなかった電車めがけて、
バレーボールを投げつけた。その瞬間にもう、
夜空に浮かぶ月が三つに増えて、
はっきりとぼくらは息を呑んだのだけれど、
電車は夜のテカり、粒々の光に向かって、
休み足りない乗客たちを連れ去って、
その間も田んぼに二つ、はじかれた月が落っこちて、
蛙さえもしばらく黙りこくって、
ぼくらの奇声だけが辺りに響き渡った―その夜、
還らない身の振りかたが如何にせよ、
車輪は今にも外れそうだった。
二人乗りで、順繰り、順繰り、
ペダルを漕いで逢いに行った。
女友達の働くスーパーマーケットへ、
そして泥だらけの素足の格好を見るなり彼女は、
「馬鹿じゃないの」と、ほとんどそれだけで
すべて汲みとった様子で、
駐車場の隅で、乾いた足首と、それから
頼みもしなかった首筋にまで、
ホースで水をかけてくれたけれど、
僕ら自身、気づいていたのかな。
たとえば、底抜けに凛々の笑顔に。
冷たくなっていく水道水よりずっと。今も。
それでもおまえは、
「高校時代に会っていたらいっしょにいたと思う」と、
その男の話をぼくらに聞かせたけれど、
ぼくはそいつと既に一度会っていたのかもって思う。
あの夜、車窓越しにぼくらを見ていた連中の
一人なのかもって思った。さもなきゃ、
おまえの引き裂かれた心、その男もろとも、何処か遠いところへ、
電車が連れ去ってくれればいいのにと思った。
そしたらまた、
去り際に、ボールをぶつけてやるから。
適うならその時、
おまえは―



自由詩 ホースで水をかけてくれ Copyright プテラノドン 2008-02-17 03:40:33
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