ビー・ゼア
餅月兎
わたしを定義するもの
今朝齧ったトーストの歯形
わたしを定義するもの
会社のデスク
わたしを定義するもの
そこに転がったボールペン
わたしを定義するもの
配達員に捺したハンコ
わたしを定義するもの
くずかごの鼻紙
わたしを定義するもの
実家にあるいくつかのアルバム
わたしを定義するもの
何人かの友人と家族と
あとは
みしらぬ他人という定義
それは虚無やゼロといった架空の概念によく似ており
そこかしこに漂っている
それを見ることが出来るのは
墓の下に住所を持ちながら
迷子になってしまった方達だけで
ときどき
かれらと交じり合ったそれは
思い込みの激しい人の夢枕に立ち
脅しをかけたり
ナイスな金儲けの方法を囁いたりする
とりあえずわたしたちがそれを見ようと思ったら
夢でも見るしかない
それを期待して
一日の三分の一近くを
それに費やす
餌を付けずに糸を垂らす釣り人のように
わたしを見ることは
わたしには難しくて
あなたが見るわたしを
わたしが確認することもまた難しい
あなたはわたしの方を向いてはいるが
虚空を鑑賞しているのかも知れないし
わたしの額に貼り付いたお札を読んでいるのかも知れない
手をひとつ叩いたら
一切合切消え去って
それでもわたしはわたし?
あなたはあなた?
ほら
「パァン」