トンネル
青木龍一郎
テレビを観てたら目から血が出た。
注ぎすぎてコップから溢れる水のように急に赤が流れた。
赤いカーテンは太陽を遮断していて
部屋は黒と、青白いわずかな光で溢れている。
僕が手元のティッシュで目の血を拭き取りながら、ふと横を見ると
君がテレビに向かって大笑いしていた。
テレビは既に電源が落ちているというのに。
僕の大事なものは全部、君の笑い声にかき消されてしまった。
僕は立ち上がり、血まみれのティッシュを丸めて君に投げつけた。
笑うな!と怒鳴った。
君は目を見開いて、驚いた様子で僕の顔を見上げた。
僕も静かな部屋に響いた自分の声に驚き、おやという表情をしている。
僕の荒い呼吸だけが聞こえる。
僕は床に置いてあったテレビのリモコンを拾い上げて電源をつけた。
再び
真青暗な部屋が白い光で少し明るくなった。
部屋は一瞬で芸人の大声と、観客の笑い声で満たされた。
部屋は外と繋がって
僕らはまたテレビを観始めた。
部屋とテレビってトンネルみたい。
光の向こう側で芸人やアイドルが笑ってる。
不健康な僕ら
病的にテレビウォッチング。
無音のトンネルの向こう側の笑い声をじっと聞いてる。
暗いトンネルの向こう側の光をじっと見つめてる。