ココア
三州生桑

「お前のココアで母さんが火傷したよ」
見知らぬ家人は、さう言ひ放った。
「昨晩、お前の飲み残したココアを片付けようとして、母さんは火傷したんだぞ。それで救急車を呼んだんだ」
「えっ? 一一九番したの?」
ぐっすりと眠ってゐて気付かなかった。その男の肩越しに両親を見る。二人とも変はった様子はない。
「お前に気を使って、黙ってゐるのさ」
ガシャン、と音がする。大勢の老人が、窓といふ窓から家の中をのぞき込んでゐる。
「お前のココアのせゐでな」
この男は誰だらう? それにココアなんか飲んでない。
「いや、僕はココアなんて・・・」
「お前は親不孝だ」
男は断言する。
「お前は本当に親不孝な奴だ」
窓の外の老人たちは拍手喝采してゐる。
「親不孝だ!」


ああ、俺は確かに親不孝だな、と思ふ。


「親不孝め!」
「親不孝者!」




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自由詩 ココア Copyright 三州生桑 2008-02-15 18:54:40
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