香り
よしおかさくら

この冬、私は矢車菊の紅茶に恋をした
CMコピーのようにもったいぶって
今までこの香りが無くて
やってこれたことの不思議を思う

確かに
その前の年にはミルクココアに恋をしたし、
さらに
その前の年にはキャラメルマキアートに恋をしたし、
さらに
その前の年にはコナコーヒーに恋をしていた

しかしどの香りも
矢車菊ほどに私を微笑ませてはくれなかった

ミルクココアは
いつも渦を巻いて
約束をはぐらかしてばかりいた
キャラメルマキアートは
話に耳を傾けてはくれず
いつもすぐに居なくなってしまうし、
コナコーヒーなどは
私を孤独に陥れる為の
策略を練っているようにしか見えなかった

矢車菊の紅茶だけが
恋の甘酸っぱさを思い出させ、
同時に身体を暖めてくれた

この冬、私は矢車菊の紅茶に恋をした
遅い午後に夜の香りを伴って
いつまでも眠ろうと思わない
時間が早く感じられる不思議を思う


自由詩 香り Copyright よしおかさくら 2008-02-15 17:14:32
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