一羽の鶯の命日とも呼べる或る冬の日
朽木 裕

上品なうぐいす色をした、ふわふわの翼



雪降る前の寒々しい日、
びうびう風は吹き荒れて、
いつもにぎわう公園には誰一人いない

空を仰げば揺れる電線、
どんどん雲は流れ流れて、
しん、冷えたコンクリートには


上品なうぐいす色をした、ふわふわの翼
静かに静かに目を瞑る一羽の鶯

一瞬、動くことが出来なくて
私は鶯の前に呆然とただ立ち尽くした







その一言が緩やかに喉元に降りてくる

強風に背中を押されるように
私は彼の前にしゃがみこむ

ハンカチでそぅっと抱き上げる瞬間、
ふ、と触れた確かな確かなぬくもりに







目は静かに瞑っていて
見れば右足は痛々しく折れていて

仄かにあたたかい命
けれど決して開かない瞳

不意に後ろから声をかけられて
私の手の中を見遣るお婆さん

「貴方は優しいのね、」

そういう声が心に沁みて
沁みてようやく涙が滲む

見知らぬ彼女と肩を並べて歩く
犬が来そうにない小高い丘まで歩く
そうっと草を分けて枯葉をどかして
静かに静かに横たえる

寒くないように枯葉を少しかけて
二人で静かに手をあわせる

「じゃあ、さようなら、ね」

かすかにお辞儀をして彼女と別れる

冷たい風がびうびう吹く日
一羽の鶯が死んだ、日


自由詩 一羽の鶯の命日とも呼べる或る冬の日 Copyright 朽木 裕 2008-02-13 23:38:45
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