二十九年すぎた頃からもっと恋しくなった
佐々木妖精

大きくなったらお父さんみたいになりたい
保育園で描いた父の肖像画を掲げて
恥ずかしがりながら言って
グローブみたいな手で撫でてもらって


四角い輪郭
プツプツの髭?
目?が三つ?
真ん中のは鼻か?
引き出しの落書きに
困惑しつつ
僕からぎこちなく
俺へのシフトチェンジを試み
俺デビューを正拳突きで飾る

いつの間にか
大山倍達のように
ヘッセのように
小沢健二のようにと
ガーガーいびきかく父を蔑ろにし
あんなつまらない大人になりたくないなんて
お決まりのことを思って

三島由紀夫のように
法学部へ進学して
数日間眠れず
飲まず食わずで向かえた朝
ここどこの空港?って聞く俺に
ここは病院だよって笑って
こっちへ少し戻ってこれて

それ以来キチガイって言葉を
絶対に使わなくなった父がいて

使い古されてきた俺は
療養とか言って大学も中退して
去年までニートで
それなのに優しくて

今また
一粒の恥じらいもなく言える
私は父のようになりたい

一万年と二千年前から愛してる

パチンコ仕込み
こぶしの効いたアクエリオンが
湯船から伝わってくる


自由詩 二十九年すぎた頃からもっと恋しくなった Copyright 佐々木妖精 2008-02-11 13:27:23
notebook Home 戻る