カラビナ、切っていくんだろ
ピッピ
カラビナ、切っていくんだろ
お前の自我が燃えている
こちらの電車が燃えている
スタンダードな鉄柱の
かすれた声は裏側に
山手線の内側で
正しい摂理を殺したら
徐に雨が降っていた
足が泣いているのだった
制限時間を設けられた自己問答のように
その旅は中途半端なのだった
病院でもない場所で
人がひとり死んでいくこと
停滞した微熱は消えず
ただ分散されるだけなのだった
真夜中を感じるには光源の多すぎる世界
宇宙から深夜を見下ろしたなら
ここはホタルイカのように不気味に光っていた
南極の氷は溶けても
ここは始めから深海のような場所だった
誰も溺れることはないだろう
古びた喫茶店ではいつものように
馬鹿みたいな女が馬鹿みたいな話をしているだろう
何十年後、何万年後でさえも
声が聞こえる、ということが
ただ苦しいときもある
どうして目はすぐに閉じられるのに
耳はすぐに塞げないのだろう、と思う
耳を指で塞いだら
きちんと指先に流れる血流の音がするのである
なぜ生きていることから逃れるために
生きていることを実感する過程が必要なのだろう
烏は同じ場所で飢えているのだった
ただ真っ黒な場所で見えないだけなのだった
いつまでも夜だから
目だけがいつまでも死んでいるんだ
カラビナ、切っていくんだろ
道は驟雨でぐちゃぐちゃだ
信号が邪魔するんだろ
信号だって光源だ
自販機が邪魔するんだろ
自販機だって光源だ
カラビナ、切っていくんだろ
不正なものの正しさが
朝の色へと染めていく