犬歯
佐々木妖精

邦楽なんか
と箒をかき鳴らし
セックス・ピストルズを崇拝していたクラスメイトが
品出しをしている店で
立ち読みだけして帰る
あんなに笑い合ったのに
ロクに目も合わせない

書き置きを残して飛び出した従兄は
処方箋を抱えて舞い戻り
イタリア料理専門店を経営し
方言を勉強して
今は蕎麦と焼酎まで振舞っている

セーラームーンごっこをねだった従妹も
首都圏で同棲生活
タキシード仮面役だけは
絶対にやらせてもらえなかったのは
そういうわけだったのだろう



三軒の総人口に挨拶をする
みな還暦まで
冬を耕して生き抜いてきたから
携帯電話やブロードバンドは
いまだ圏外だ

雪の隙間に合い鍵を差し込み
ただいまとつぶやく
電気もガスも水道も途絶えているというのに
気配は消えていない
外よりも暗い屋内で
止まらない蛇口をこすり
ストーブを抱きよせ
ブラウン管に寄り掛かる

テントウムシが逆さに転がっている本棚で
祖父が歌っている


起つや忽ち撃滅の
勝鬨挙る太平洋
東亜侵略百年の
野望をここに覆へす
いま決戦の時きたる



甲種合格なのを自慢し
死ぬまで信じ続けていた



負け犬は鳴くのをやめ
犬歯をちらつかせる

スローライフ
バンザイ


自由詩 犬歯 Copyright 佐々木妖精 2008-02-10 12:03:26
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