真夜中の子猫
りゅうのあくび

冬の永く寒い夜
ふと目覚めると
胸の近く
暗がりの辺り
うぶ毛に包まれた
小さくて黒いかたまりの
軽すぎる体重が
かわいらしい

ちょうど昼間に
家の子猫を呼ぶと
飛んで跳ねては
階段のてっぺんへと
駆け上がってゆく
そのときには
なぜ人間と猫は
同じ言葉が
ないのだろうかと
そんな片想いの気持ちを
思い出しながら

真夜中の
ふっくらとした
布団の上で
夜の砂漠のなか
身を固める
小さくて黒いスフィンクスが
座っているみたいに
古代エジプトの王の棺を
見守っているようで
ピラミッドの夢を
みているのだと想う

しっぽは
猫のからだに
そって丸くなり
かたわらで
夢とうつつのあいだ
きっと何かを意味する
発掘されずにのこった
文字盤の石に写る
象形文字みたいに
謎めきながら
静かに沈黙していて

王墓の横にすわる
スフィンクスの
小さな寝息は
夜の砂漠には見えなくなる
蜃気楼にゆらぐ
昨日のオアシスみたいに
そこからはもう
何も聴こえてはこない

消えてゆく黒い音
まなざしの中で
そっと消えてゆく世界


自由詩 真夜中の子猫 Copyright りゅうのあくび 2008-02-08 19:31:35
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