20080207
藤野鞠子
何かを急に言いたくなって 口を開けたとたん
くもりぞらにのみこまれてしまった
たとえば好きな音楽を
反芻してやり過ごす
でも最後が訪れるまで
待ちきれないんだ
盛り上がりがこないから
もどかしくて
かなしみに頭までつかって
きもちよかったのかな
そういえば髪がずっと
湿ってた
風が吹かなかったんだ
自分ひとりしかいないみたいな背中
見せびらかして歩いてた
坂道には光が降り注いで
豪華な家やマンションの窓をきらきらさせてた
レースのカーテンと丸い傘の照明
私は
イヤホンの曲を1分ごとに変えた
光がまぶしいのに
あたたかくはなかった
人が通り過ぎるたび
1枚ずつ服が雑巾に変わってった
今日は大好きなスウェードのスカート
日曜日にフリマで買ったやつ
だったのに
知らない服ばかり増えていく
話したくなくて泣くなくて
バカみたいだ
それでも話さなくちゃ
なくちゃ、なんて
そしてまた喉を閉じた
喉が閉じた
見て欲しいのは
ひとりのときのわたし
それ、どういうこと
きっかけさえあればって
いつも夢見てた
傷なんていくつでも
つけばいいと思ってた
取り返しがつかなくなるのが
いまは
こわい
かなしみが好きなんて
あるわけない
あるわけない
痛いのは嫌い
当たり前でしょう
スウェードのスカート
雑巾に変えないから
いま 見に来て
会いに来て
会えよ