くろいへその緒 
服部 剛

仕事帰りのバスに乗り 
すいていたので 
座ったぼくの隣りに 
いつも背負うリュックを置いた 

よけいなことはなにもいわず 
いつもいっしょにいてくれる 
友達のように思え 

あの日この世から消えた彼も 
どんなことでも話せる唯一の 
リュックのように思え 

チャックをひらいた
なかに入れてある 
CDウォークマンの 
イヤフォンを耳に入れ 
再生ボタンを押すと同時に 
坂道で飛び上がったリュックは 
一回転して着地した 

リュックとぼくを
へその緒みたいに結ぶ 
イヤフォンの黒い線から
この耳へ 
「バスに揺られて」という 
明るい鼓動の響く唄が 
穏やかに流れていた 

(笑い声のするあの頃を取り戻そう) 

床に立つ 
リュックのまわりは 
きらきらと 
ひかりの粒が 
唄っていた 



 ※ 6連目の歌詞は杉本拓朗ばんど「teddy」
   (エクスプロージョンレコーズ)の 
   「バスに揺られて」より引用しました。 





自由詩 くろいへその緒  Copyright 服部 剛 2008-02-06 20:49:14
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