くろいへその緒
服部 剛
仕事帰りのバスに乗り
すいていたので
座ったぼくの隣りに
いつも背負うリュックを置いた
よけいなことはなにもいわず
いつもいっしょにいてくれる
友達のように思え
あの日この世から消えた彼も
どんなことでも話せる唯一の
リュックのように思え
チャックをひらいた
なかに入れてある
CDウォークマンの
イヤフォンを耳に入れ
再生ボタンを押すと同時に
坂道で飛び上がったリュックは
一回転して着地した
リュックとぼくを
へその緒みたいに結ぶ
イヤフォンの黒い線から
この耳へ
「バスに揺られて」という
明るい鼓動の響く唄が
穏やかに流れていた
(笑い声のするあの頃を取り戻そう)
床に立つ
リュックのまわりは
きらきらと
ひかりの粒が
唄っていた
※ 6連目の歌詞は杉本拓朗ばんど「teddy」
(エクスプロージョンレコーズ)の
「バスに揺られて」より引用しました。