「青」
菊尾

ひしゃげた表情の老人が空き家の前で座っている
迷惑そうに振り払った女が古い歌を口ずさむ
明け方の街路灯にカラスが物言わず腰掛ける
壁に手をあてながら歩いている

嗄れた声でかき鳴らした
ここは煩すぎるから消息を絶った
四回目のコールで出た彼女は抑揚なく
「今を知って」と言っていた

どこまで伸びてどこで終わりを迎えるか
着飾ったのに虚ろな目して目的もないまま揺らめく足首
額縁の裏側に隠した最後の言葉
拮抗していた夜が幕を引いていく

過去を迎えられずに逃れる術が増えていく
視線が落ちたから手繰り寄せた薄い肩
ブラウン管から洩れた青白い明かりの中で
また一つ、熱に浮かされる

思惑が無くなれば綺麗なままでいられるはずと
小さな火と紫煙が揺れている


自由詩 「青」 Copyright 菊尾 2008-02-06 08:51:14
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