そのときから新しく刻まれる
ホロウ・シカエルボク










君は月の背に腰かけ
ハイコントラストな
羽衣を織っている



僕は
凍てつく風を避け
木のうろにもぐりこみ
草の蔓をあつめて
ささやかな輪を作る



すべて失われた世界には
果てしない大地だけがある
君がいる世界から
穏やかなひかりが降りてくる





本当の時の流れは
しんと静止して見えるものだ





僕らは
それぞれの役割をはたしている
君は月のうえで
僕は木のうろの中で



眠りにつくときだけ
お互いのことを気にして
あとには
風だけが残る
砂が舞い上がる光景に
音楽と名前をつけよう
夢を見るときに
それを
かたわらに添わせることを忘れないようにしよう
君は月のうえで
僕は木のうろの中で



たくさんのものを見送ったけど
世界の名前は変わらなかった、君は君であり
僕は僕である
所詮それだけのものだということは
実はすごく大切なことなのだ



メタリックな角をかざした野生の牡鹿が
静けさに触れている
その角をめがけて
僕は草の輪を投げる
彼が首を少し傾げるだけで
それは彼のものになる
彼はしばらくの間僕を眺めたあと
後足でこつこつと
二回地面を叩く
彼はいまから
この世でたったひとりの
美しい牝鹿に逢いに行くのだ
僕は君に合図する
君が羽衣をしゃんと振ると
月の色が少し明るくなる




僕らの役目はそれでおしまい
僕らの
築いてきた世代も
それでおしまい








牡鹿よ
うまくやりなよ
その角が










この先薄汚く翳むことのないように









自由詩 そのときから新しく刻まれる Copyright ホロウ・シカエルボク 2008-02-05 20:27:10
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