「こときり」
たもつ



降りしきる雨の中
傘もささずに俺たちは歩いた
死ぬほど歩き続けた
けれどそれで
俺たちが死ぬことはなかった
俺たち いい奴だった
俺たち 輝いていた
俺たちは生の肉だった
俺たちは皮膚そのものだった
俺たち 愛しあってた
俺たちはポケットに
鋭利なナイスを忍ばせて歩いた
時々鋭利なナイスをちらつかせて
俺たち 素敵だった
好きな食べ物は何ですか
そう聞かれて
カブト虫
と答えてしまったような気まずさが
生きていく俺たちにはあった
別にダンゴ虫でも良かった 
俺たちはダンゴ虫が好きだった
俺たちには名前があった
降りしきる雨の中
歩く俺たちを追いこしていく
別の名前たち
アスファルト
雨が水となって溜まる
ガードレール
のように
俺たち 無口だった
俺たち 平和だった
矮小なバクテリア

そしてテリア
首輪をひきちぎり
テリア走る 北へ
背中の手が届かないところが
痒い俺たちは
ショウウィンドウを見ながら
お互いの背中を掻いた
俺たちはショウウィンドウ
になりたかった
俺たち 幸せだった
降りしきる雨の中
僅かな言葉で愛を語り続ける
俺たちはいつまでも頭蓋骨だった






自由詩 「こときり」 Copyright たもつ 2004-06-25 08:53:03
notebook Home 戻る