「遠景」
菊尾

水曜日の十字路で
はた迷惑な幻が前を横切る
覚えた顔もすぐに霞むが
並ぶ影の形は忘れずに

この世では
特別であり続けたい
胸の内は琥珀色が丁度いい
その人はそう言った
日傘を畳む芝の上で
懐かしい匂いが寝転ぶ鼻先に

袖をつかむ癖や
誰もいないトンネル
見知らぬ景色を持ち帰る場所が無い二人
唇に近付いて
足元の石が小さく響く冷たい冷たいヒヅメ型

再生は垂直に
再度ヒズんでしまうその前に
「いつも言葉は少ないね」
長い石階段を
その手を連れて駆け下りていく


自由詩 「遠景」 Copyright 菊尾 2008-02-04 18:37:39
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