女のことば
服部 剛
「せくはらは、はーとがあれば、いいのよね」
勘違い親父の部長を嗜(たしなめ)めるように
女友達はぼくにささやかな
愛の秘密を教えてくれた
「ちょっくら金をおろしてきます」
ふたりの友の背中を
居酒屋「エポペ」に送りこみ
黒網タイツの姉さんの
お誘いの声をかわしたふりで
歌舞伎町の人ごみを
コンビニ銀行へ
ずんずん歩く
なけなしのおろした金を
そっとふところにしまい
そんな女の言葉を思い出しながら
新宿区役所前を
ずんずん歩く
さっき女友達が3分間も立ち止まり
いいお家にいくんだよ
と呟いたペットショップの檻の中から
ガラス越しに( にゃぁ )と鳴いた
白い子猫はすでに姿を消していた
「エポペ」の入口に入ってゆくと
隣の店のきゃばくらの
猫耳をたてたぴんくの顔した風船達が
寂しがり屋で真っ赤な顔の飲んだくれに
いくつものはーとを
ゆらしていた