「雨幻」
菊尾

枕元には雨の匂い
室内はいつもより無機質
コップに挿した一輪は真っ赤な横顔
衣擦れの音も呼吸も壁に吸い込まれていく

表情豊かな外形が圧迫するのは君の胸
心の濃度が薄まると疎通を交わす
言葉にはしない
秘密は静寂から生まれたほうがいい

液体になって境界がなくなって
零れて気化して天井にも触れるよ
欠けた僕らは
肌を隙間なく埋めていく
幻想のように君が笑う

人の上辺に寝そべることを
僕は嫌わない
不純物だとか言い訳だとか
誰かの話は通り過ぎてしまったよ
辻褄が合わなくても楽しめる
作りが違う
それは哀しくも幸福な結末

何本も垂らされる雨の糸
たどる途中で涙も糸になる
暮れる一色昼夜
投げた赤が窓から落ちる
幻想は嫌だと君が言う
だから閉じ込めようと
瓶を探す


自由詩 「雨幻」 Copyright 菊尾 2008-02-03 08:38:42
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