紫鬼のお面
北大路京介

毎年、節分の時期が近づいた頃
駅には近所の小学生の作った『鬼のお面』が飾られる

"上手な子"の作品が選ばれて飾られる

自分の作ったお面が飾られる子供は
近所の おばちゃん達から
「すごいね」「うまいね」と褒め称えてもらえる

小学2年生の二郎くんも自作のお面が飾られることを夢見ていた


二郎くんには2歳年上の兄がいた
兄は成績優秀、運動神経も良く、神童と呼ばれていたのであった

二郎くんは、そんな兄にも負けないと思う教科が唯一あった
図工である

二郎くんは、絵を描くことが好きだったし、工作も得意であった
クラスメイトも全員、二郎の才能を認めていたし、
駅に飾られるのは二郎の作品であろうと思っていた


図工の時間
『鬼のお面』作り
紙粘土で形を作って、それに絵の具で色をつけるものであった

二郎くんは毎日 放課後、下校時間ギリギリまで独り残り
『鬼のお面』作りに没頭した

すでに二郎くんの作品は、色をつける前の段階で、クラスの誰もに賞賛されていた
圧倒的であった

二郎くんは 鬼の面に 赤でも 青でもない 紫の色をつけた
その紫の鬼は、今にも動き出して、人間を襲い、喰らいそうであり、
妖気ともいえる まがまがしいオーラを放ってるかのようであった

"今年の節分には 駅に 紫の面が飾られる"
生徒全員が確信した
二郎くんもそう思っていた

しかし、二郎くんの作品は駅に飾られなかった

二郎くんは、どうして自分の作品が選ばれなかったのか担任の先生に尋ねた
すると先生は 答えた

「 だって、紫の鬼なんて いないでしょ 」


二郎くんは悔やんだ
赤や青にしておけば良かったと

二郎くんは泣かなかったが、二郎くんの母は泣いた

「 二郎のお面が一番じょうずだった
  あの先生はおかしい
  学校に抗議したいけれど、抗議したら、二郎が先生に いじめられちゃう
  わかってね、二郎  わかってね 」

母は二郎くんのぶんも涙を流した


2月になると 二郎くんは毎年 思い出す



紫色の鬼が発見されるのは、それから60年もあとのことである


自由詩 紫鬼のお面 Copyright 北大路京介 2008-02-02 14:58:40
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