祖母ジュース
石原ユキオ



長年患った糖尿病の悪化により、祖母石原みよしの尿はパイナップルジュースになりました。寝台の横に置かれたポータブル便器よりこんこんとわきいづるアンモニヤ臭の中に仰向けていた石原みよしはいまや、ふんぷんたるトロピカルの中心に坐し、ウクレレを奏でています。

長年患った糖尿病の悪化により尿がパイナップルジュースになってしまった祖母石原みよしはいまや、一家五人の貴重な栄養源。ポータブル便器のバケツ部分から五つの湯のみ茶碗へくみ分けて、湯気の上がるそれをいただく我が家の朝食。祖母みよしを囲んでの一家団欒。

便座の裏側に結晶した祖母みよしの尿はパイナップル糖として売られています。ゼーエー岡山を通してお買い求めいただけます。パイナップル糖をお召し上がりいただいた方が、ジュースを飲ませてくれと訪ねてこられることもあり、祖母石原みよしお気に入りのムームーのハイビスカスも満開におめかししてお客様をお迎えするのです。

今日は神奈川から自転車で来たといういがぐり頭の少年。「みよしさん」と声をかけられた祖母みよし、おもむろにムームーまくり上げ、きねつきもちのごときふとももに少年の頬をはっしとはさみこむ。少年の日に焼けた鼻の先が柔肉をかき分けて陰核押し上ぐるやいなや、ぢょおろりんぢょろんとほとばしる祖母のパイナップルジュース。ほとばしる祖母のパイナップルジュース。一滴ものがさぬようにこぼさぬように喉を鳴らす少年。陶然と天井を見上げている祖母石原みよし八十三歳、その手元でウクレレがポロン。

長年患った糖尿病の悪化により、祖母石原みよしの尿はパイナップルジュースになりました。ふんぷんたるトロピカルの音階を奏でる祖母の寝台の周りにはいまや熱帯の植物が生い茂り、猿なども住みつき、火山は隆起し、連日の猛暑となりました。

マラリアの熱にあえぐ石原家一家五人の楽しみは、祖母みよしの尿を焼けたアスファルトに流して作るべっこうあめです。あるいは、排尿途中の祖母みよしをタンブラー式乾燥機に放り込んで作るわたあめです。かき氷に冷やした尿をかければ完膚なきまでにお祭りの夜なのです。べっこうあめもわたあめも近くゼーエー岡山より販売予定です。

いま、蛍光灯の紐をかすめてツエツエバエが飛んでいきました。祖母石原みよしは、今日も新鮮なパイナップルジュースです。





(2007年)


自由詩 祖母ジュース Copyright 石原ユキオ 2008-02-01 21:34:12
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