おじさん
つばくらめ

今日初めて
道行く少年に おじさん と呼ばれた
スーツを着ていたからだと思うけど

公園の木が風に震える
アスファルトは抵抗する気すらない
おじさん、てぶくろおとしたよ、
とその少年は
水色のDSを持っているのとは反対の手で
にび色の手袋を差し出した

おじさん、と口に出すと
幼いころの自分は
それだけで少し胸が躍った
子どもらに配るほどの金があり
ニュースという不可解な言語を理解し
風邪薬より苦いビールを飲み干している
僕のおじさん
その頃は
いつか自分も お年玉をもらう側ではなく
あげる側に移るだろうことを
ほんの少しの無常を感じながら
ぼんやりと信じきっていた

それがどうだ
どうも、と細い声で
湿疹の消えない手の甲を差し出した自分は
シゴトを売って対価を得る気にもなれず
とはいえ道を外れる決意もできず
もっと不可解な理屈ばかりこね回して
ネットの片隅に垂れ流している

少年は笑う
僕は取り繕う
少年は駆け出す
僕は逃げ出したくなる



今日初めて
道行く少年に おじさん と呼ばれた
スーツを着ていたからだと思うけど

ひょっとして、
あのおじさんもつくり笑いだったのか
そこまで考えたところで
僕はヘッドフォンをし直した


自由詩 おじさん Copyright つばくらめ 2008-02-01 19:02:41
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