ポケットにひと粒の種を
服部 剛

(十代の頃、
 探していた答えは見つかったかい?)

(「見つかった」と「見つからない」の
  間に伸びる道を歩いているような日々さ)

(あの頃、
 まっすぐに伸ばした腕で
 掴もうとしたものは、何だい?)

(腕の骨は、歪に曲がってしまった ・・・
 かじかみ開いた手のひらに置いた
 「空虚な果実」の皮を果てなく剥いては
 いまだに「真実の種」を探している)

人と人が愛し合うというシンプルなことは
なんだかとっても複雑で
職場の休憩室の畳の上
胸に手を置き横たわれば
ホラ さまざまな人のさまざまな悪口が
低空飛行で群れる戦闘機の鈍い音で
僕と天上の間を通過してゆくんだ

(戦闘機は
 時折僕の胸からも飛び出しては衝突し
 また僕の胸に墜落してきたりする)

言葉はいつだって 口から放たれた瞬間
空気の振動で形を変えて
君の胸に 届いて しまった

もう一度
手紙は書き直したほうがよさそうだ
白紙にしぼり落としたインクの本音を
大事な人には
ちゃんと伝えられる人でありますように

君の隣で「ニコッ」としているだけで
ゆるしあえる空間に
やがては辿り着けますように

悪口の戦闘機の群が
休憩室のふすまの隙間から出ていったら
僕はゆっくりと身を起こし
再び 人々の間に入ってゆきたい

(ズボンのポケットに
   微笑みの種をひと粒握り)

騒がしい日常の渦に
愚かしい自分を静かに沈めて
一輪の笑顔を咲かせたい


自由詩 ポケットにひと粒の種を Copyright 服部 剛 2004-06-24 22:08:12
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