風船
アンテ


朝ごはんの支度のあいだも
ゆっくりお茶を飲んでいるときも
外がなんだか騒がしくて
庭に出てみると
黄色い風船がひとつ
軒先にひっかかって揺れていた
物置小屋からはしごを出して
なんとか救出すると
家じゅうを落ち着きなく行ったり来たりするので
ためしにペンで顔を描いてみると
堰が切れたように
身の上話や悪口をしゃべりだした
よほどひどい目にあったのか
どろどろしたものが中にいっぱい溜まっていた
流しに運んで
口をほどいて慎重に中身を捨てているあいだ
ああガスが抜ける ゴムが痛む 萎む
などと
うるさいことこの上なかった
きれいさっぱり軽くなった代わりに
すっかり小さくなって
風船は自力では飛べずに
最初からガスなどほとんどなかったくせに
片っ端から誰かのせいにした
言われるまま外へ放つと
あえなく庭に墜落して
しばらくは海水をただよっていたが
引き潮に流されて垣根にぶつかり
あっさりと割れてしまった
すっかり潮が引くのを待って
ゴムを拾って屑入れに捨てた
流しからとても嫌な臭いがするので
洗剤でごしごし洗った
服にも臭いが移った気がして
念入りに洗濯して干した
やれやれ
ひどい目にあった
気がつくと
悪口を言う癖までうつっていた




自由詩 風船 Copyright アンテ 2008-02-01 01:47:02
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