「奥へ」
菊尾
ふたりが消えてしまっても
誰かが伝えてくれる
瞼を閉じたらそれが合図だよ
このままでは居ることができないから
忘れるために出かけよう
降り出した雨
僕たちの膝下が見えなくなって
小さな波紋は大きな波紋に飲み込まれて
冷たいはずなのに分からない
靴はとっくに脱げてしまったよ
流れて行く灯籠を数えていた
藍色の中で温もりだけを望んだ
結論は出ないままで
紛らわすように
石を対岸へ滑らせていた
時間に限りがあった
僕たちの方法は間違っていたけど
それ以外には何も無かったんだ
誰かの呼び声がしても今は迷わず進むだけ
すぐ傍を、はぐれた灯籠が通り抜けていく
今からはあれを目印に
言葉がこんな泡みたいに目に見えていたら
僕たちはまだ残れていたのかな
もう少しは届いていたのかな
真っ暗な中、水面に浮かぶ灯りを見た
あれは追っていた灯り
不意に視界が塞がれた
これは君の靴
遠くなる
苦悩した今までも
途切れさせなかった温もりも
サイズが小さい君の靴も
最後に観たのは
唇と鎖骨と
此処より深い
その瞳