ひとつ しあわせ
木立 悟
ひかりがひかりに逢えるように
そうであったうたに戻れるように
ひかりがひかりになれるように
そのままの水を飲めるように
足にからまるまだらな音
消しても消しても残るもの
ひとつたしかに
岩となるもの
ゆたかな と
風がつぶやく
何に向かってではないのだろう
何のためにではないのだろう
見つめたいだけ見つめつづけて
疲れたらふと閉じるだろう
祭のあとに生まれるこども
両手にこがねを持つこども
冬のうつろに満ちる陽を
錆と錆を揺らす陽を
指は知って 指は嗅いで
赤茶に笑んで
何故ここにいるのか問われていた
複数の羽 複数の羽 応えられずに
ただ消え去るものを抄おうとしていた
鳴ることのない楽器の音を
あなたがあなたにとどまらず
はばたきがはばたきをくりかえす
風が風に描く風
遠去かる水 水紋の背
手のひらを問われ
手のひらの上を問われなかった
しあわせになれない
ずっとこうしてゆく