初夜
簑田伶子
列車から放った鮮花は孤児だから一枚一枚懐柔していく
長針の長さか短針の長さかと午前午後とも振り切れてなお
隣家の瓦のいろを確認する軋む板間にうぶ着の陽光
金柑の実が落ちそうになるのを視線でささえるだけの縁側
白魚の手を撫ぜたいと秘めた筆跡の余韻で散歩にでようか
木製の柄の傘たおれて傷に降る埃の気配だけがしんしん
一心にみだれぬと決めた艶髪に添われておちる瞳の真っ暗
親不孝なのかとささくれ見たままで口にできずに口にできずに
雲行きを白痴のごとく請け負えば池の鯉ともようやく目が合う
照明にふれて崩れた羽音がながい廊下の足音に似て
背丈ほどの影でしかない優しさがさんざめくから生涯連れ添う
線路わき咲かずに凪いだ春がゆく今宵あなたと葬列するのね