ささくれたひと
恋月 ぴの

虫のいどころでも悪いのか
いつまでも押し黙ったままで
あなたはテレビの画面を眺めるでもなく
そっと箸を置く

テレビのなかには
つまらないギャグに笑い転げる顔があり
テレビのそとには
些細なことまで我慢を重ねる顔がある

あの頃は夜明けまで熱く語ってくれたよね
夢とか希望とも違うもの
それは行き場の無い怒りや苛立ちとか
思いの丈をぶつけてくれたことへの幸せがあった

いつからだろう、ふたり
お互いの顔を見合わせることさえ避けようと
それぞれが描いた丸い輪のなかから出ようともせず

ひとにはひとだけが感じる痛みがあるのだと
左手の薬指にできたささくれは疼き

幸せから滑り落ちた一枚の絵皿
床の上でふたつに割れた



自由詩 ささくれたひと Copyright 恋月 ぴの 2008-01-29 15:40:05
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