批評祭参加作品■You?
2TO

批評祭から遠くはなれてみる。
アフリカじゃ紛争が終わりそうもないし、パレスチナなんて終わりもまったくみえてこない。
一方で、キャンパスでメシ食ってのうのうとしてる奴だっているし…たぶん私だってそう。
誰かがカネをもうけてて、他のとこには何にも周ってこない。
それに人間はみんな罪背負ってて、どーにもこーにも赦されないらしいっていう、とんでもない不条理。
それに比べれば、ここや2ちゃんで誰かが起こしあってる応酬なんて、何てこともない。

私はチャップリンの「街の灯」っていう映画が人類史上一番の映画だと思う。
それには人間が生きていくってことが全部入ってるから。
「Be brave, Face life.(勇気を持て、立ち向かえ。)」ってチャップリンが自殺しようとした男に言う。
こんなたった4語で、生きていくのに一番大切なことが言える。
「You?」って、最後に眼が治った女性はチャップリンに言う。
それを聴いてチャップリンが笑う。ほんとうに嬉しそうに笑う。
どんなに人に、自分自身に絶望しているときだって、それを観ると必ず泣いてしまう。
少しだけ立ち上がろうという想いが湧いてくる。

「You?」っていうセリフは、全映画史を通じて最高のセリフだと思う。
凡百の詩句よりも詩篇よりも、この一言の方がずっとずっと強い。
映画批評とか映画史だとか……そんな論には表すことのできない素晴らしいものがそこにはある。
たぶん、この言葉ひとつでチャップリンはあの後ずっと生きていけるのだから。


そんなに長くも生きてはいないし、そんなに多くの人に出会ったわけでもない。
だけど悲しい人もいた。酷い生活の人も、そして、去りゆく人にだって会ってきた。
そこには様々に交わされる言葉もあった。優しい言葉、笑える言葉、
時には、ひどく傷つけあう言葉さえも。

詩や作品は、そういった感情や言葉が創り出した一片の雪の結晶だ。
それを読むこと、観ることは、あなたの静止した水面に雪が落ちること、細かにその表面を波立たせることだ。
震える湖面、その奥底にあなたが見つけ出したものこそが、たぶん「美しさ」と呼ばれるものだろう。
そして批評するとは、指を結晶に触れ、その体温をもって雪を水へと還すことでしかない。

―――「触れること」。
その仕方によっては暴力でありうるだろう。また時には労わりを、優しさをもって抱きしめることでもあるだろう。
この腕、この指、あるいは言葉や眼差しによって、誰かの名づけられた感情や想いに自分の体温をうつすこと、
雪の冷たさを温もりとして、時には一粒の涙の代わりに、それを重力に乗せることであるだろう。
でもそれは結局、人が生きることでしかないのだ。


本当のことを言えば、誰かの詩の出来が良いか悪いかなどどうでもいい。
あなたが書きたいことを好きなように好きな言葉で書けばいい。
けれども、覚えておいてほしいと想う。
すべての詩、言葉において大切なのは「You?」と言えること、つまり、「あなたに生きてほしい」と伝えることだ。

そして批評において大切なのは、彼女が「You?」といった後に映し出されるチャップリンの笑顔の、そのまた後の、
スクリーンには映し出されることのなかった光景シーンを描き出すことだ。

それは、おそらく彼ら2人が互いの手を握ること、そして言葉と言葉とを交わすこと、
つまり「触れ合う」こと、人と人とが「生き合う」ことの光景であるはずだから。


散文(批評随筆小説等) 批評祭参加作品■You? Copyright 2TO 2008-01-29 05:10:41
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。
第3回批評祭参加作品