わたる ひびき
木立 悟
おりかけた踏切を越える数が
息つぎの数を超えてゆく
骨にそのまま吹くような
すずやかな朝
沈没船の数
鳥の数
波の数
星の数
誰かの何かになれる数
石に刻まれるほどに
よろこびを欲しながら
皆が皆 得られずに帰りゆく
その背も その音もまた
石に刻まれてゆく
雨が道に木を描き
雨のあいだかがやいている
枝がひとつ
滴をつまむ
帰る声が唱になり
水のまわりを巡っている
水底には過去があり
水面を髪のように覆う
逆光の羽 午後の淵
緑と
光の落とし主が出会い
互いの声を交換する
水たまりに脈うち
ひとつひとつ名を忘れ
ゆうるりと
透りゆくもの
葉が葉を葉と呼ぶ以前のもの
羽の上に常にいる羽
とどろくものを畏れることなく
闇へ応え とどろくもの
行方だけを知らされていない
石と水底
雨去りしのち
静かな息つぎ
人工の
赤いまばたき
再び潮が満ちてゆき
座礁船が沈むまで
岩と鉄は見つめあう
砂のかたち 波のかたち
忘れてはただ見つめあう
むずがゆく震える
何度めかの朝の繭に
触れる耳 触れる目
聞こえくる色
小高い丘の両側を
影がすべり落ちてゆく
音の堤 音の轍
わたるものの無い
水の上の道
ひと呼吸ひと呼吸に咲くものを
どう名づけても消えてゆく
望むものを得られずに
帰りつづける背の逆へ
朝は粗い光を降らす