七年
佐々木妖精

たとえば
履き潰し
捨てるつもりだったスニーカーを
いまだに車へ立てかけている
何度も体温を通わせた
足に馴染みきった身体を

物を
肉体を
引きずって

これは道具なんだと
気づいた

おでんは熱いから
指という道具では掴めない
指という道具で
菜箸を操る
指という道具で

エアタイピング
目という道具を
眼鏡という道具で矯正し
見つけた

中央で泣いてたのに
今は時々
片隅で笑っている
生きることが
素晴らしい
のではなく
軽快であることが
素晴らしいのだと
        口を開け笑っている



その立ち方はまるで
ポールの上に
脚立を置いたように不安定で
脚立のてっぺんで
自転車を持ってきてしまったことに気付くような
要領の悪さもあったから

だから

あまりに痛むようなら
捨ててかまわない
義足も棺桶も燃やしてしまうし
一人分の料金で
折りたたんで観光にだって行く
たぶん死者は
いつの時代も
生きている者たちが
墓場まで連れて行くもんだ


生活を工夫する苦痛が
死への恐怖を上回ってしまったら
死ぬ以外の突破口を知らない
かつてきみが示してくれた
そのロープしか知らない

あの世と魂を信じないのは
思想ではなく都合だ
死んだ時の保険でしかない
あればラッキーなんだ
ないと思っといて
あったら飛べるだろ
どこまでもどこまでも浮いていくんだ
羽毛よりも軽いんだ

墓前でカラスと
餅を奪い合っている


自由詩 七年 Copyright 佐々木妖精 2008-01-28 17:03:25
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