心が行く
砂木




そろそろかなと思い始める十月の終わり
会社が休みの日には 生家の林檎畑へ行く
林檎の収穫は九月から始まっているが
十一月にもなれば 雪が降り始めるので
積もって身動きがとれなくなる前に
収穫して収入にできるように
生まれた時から歩いた林檎畑に
心が まず行く

おはよう と父と母に声をかける
赤く実った林檎の中へ
野良着の私は歩いて行く
おはよう 父と母が もう
はしごに登ったり 林檎箱に林檎を選別したり
畑の中を元気に働きながら言う
すぐに手伝いながらも 近況など話していると
親戚のおじさんやおばさんも 手伝いにきてくれる

おはようございます
はやくから 難儀かけます
今年もはじまったんしなあ
まず無理しねで ゆっくりやってたんせ

一年過ぎるのは はやいなや
今年の林檎は なんとだっけな

手足は動かしつつ 近況が話題にされる
ざわざわと緑の葉と赤い林檎の間を
いくつもの笑顔がいきかった

会社もそうそう休めない
一時に集中してする収穫
すべて手作業の林檎もぎに
人手は ありがたい

祖父母が杉畑を開墾し 買いたし
少しづつ増やした畑だ
父と同じ年の木もある
父の兄弟を育て 私の兄弟を育て
今 甥も育て
でも 守っているのは家人だけではなく
守られているのは 家人だけでなく

また難儀かけます と挨拶をかわしていた
親戚の人も年とともに 変わり
二度と挨拶をかわせない所に旅立ったおじさんもいる
雨風の日は合羽を着て
共に 黙々と作業した

心が行く
青空の中 みんなで働いた林檎畑へ
ありがとう おじさん

元気に働いた秋の日々へ
私の一番 幸せな日々へ
そしてこれからの 幸せな日々へ
心が行く







自由詩 心が行く Copyright 砂木 2008-01-27 22:13:44
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