「溺れる心音」
菊尾

「愛されたい」と
傍で吐息混じりに呟いた
僕たちの均衡は
愛情が濃くなればなる程に
一つずつ剥がれていく
変化する形状に怯えるが
壊れたらまた創ればいいと簡単に君は言う
会う度に二人の形は剥がれ落ちて
粒子状になって吹き飛ばされてしまうような感覚
再構築は難しいのに
それを言い出せないままでいる

求めるのは怖いから
手の甲を頬に当てる
冷たい僕の手で君は少し震える
乳房を含めば背中を爪が伝う
首を絞めれば笑いながら絞め返す
開いたり閉じたり腫れたり滲んだり
君は包むように
僕は塞ぐように

窓を流れる雨の影が体に重なる
終われば鼻歌を掠れた声で唄う
胸に耳を押し当てられる
細い手首を握る
この瞬間を音と振動で確認する
満足そうに微笑むその顔
満たされれば朽ちていく
その先を悲観する僕の代わりに
外では一段と雨が泣く


信じなくていい
体温は嘘をつかない
きっと壊したがっているのは僕で
乾かない髪のまま
震える指先
思うように話せずに月日が残酷さを助長していく


裏切る僕を許さなくていい
そうすればきっと
生き続ける事ができるだろう
歪んだ僕は
君の暗がりの中だけで呼吸する


自由詩 「溺れる心音」 Copyright 菊尾 2008-01-27 20:03:52
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