凍った月
いねむり猫


地吹雪が去った夜
夜空に張った薄氷の中に
満月が封じられている

月の光は 
擦りガラスを透した霊安室の灯りのように
歪められ 動かない

風がどこかで身を潜めている雪原で 
針のような星の光に縫い止められた 男の薄青い影は
悲しみに我を忘れた主人に別れを告げて
この夜の住人になる

闇に引かれて飛翔するフクロウが
今夜の獲物に太い鉤爪をめり込ませるころ
雪にしたたる数的の血で 月の光がゆるむ

この道の先には たしか大きな湖があったはず
影のない男は かすかにうなずき
小さな亡骸が一人残る小屋から逃れて
凍った月の中へ 分け入って行く


自由詩 凍った月 Copyright いねむり猫 2008-01-25 04:34:11
notebook Home 戻る